米国先住民マカ族の人々と鯨
イチローが頑張っているマリナーズの根拠地シアトル市から、北東へ約200キロ。ワシントン州オリンピック半島の突端にあるニアベイという小さな町に、マカ族の人々はひっそりと父祖の伝統を守りながら暮らしている。狭い海峡をへだてて対岸はカナダ領である。
今年のアンカレッジIWCに先立つ数日間、このマカ族居留地を訪ねた。
この人々は、4000年ほど前にベーリング海峡を越えてアジアから渡ってきたという歴史を持ち、遺伝子解析ではもっとも日本人に近いという。部族人口は僅か2300人。約半数がニアベイ居留地に住んでいる。現在の生業は漁業、林業である。
もともとはオリンピック半島のほぼ全域に居住していたが、1855年米国政府との契約で、沿岸捕鯨の権利を含めた優先的漁業権と引き換えに、半島の先端部分に居住地を制限させられた。それだけなら、まあ居留地は狭くなったけれど、部族が寄りそって平和に暮らしていけるならいいということになるのだが、そこに米国政府のイカサマが潜んでいた。
1999年マカ族は1頭のコククジラを捕獲した。これが大問題になる。グリーンピースはじめ反捕鯨団体が大挙して、反捕鯨を掲げてニアベイに押しかける。さらに1972年に制定された「海洋哺乳動物保護法」に違反していると政府から訴追されるという破目に陥るのであった。先住民として捕鯨の権利は与えるが、米国民として保護法に従って許可なしに捕鯨できない。そして米国民には捕鯨の許可を与えないという、二枚舌のペテンである。しかしそのときマカ族議会は、捕鯨権利は留保するものの米国民であることを優先し、捕鯨問題では政府と争わないという決定をし、以後捕鯨活動を休止している。
マカ族のシンボルは、エスキモー神話における神の鳥サンダーバードが鯨を足でしっかり捕まえている絵柄である。その昔マカ族が不漁にあえいでいるとき、サンダーバードが海辺に鯨を運んで人々に恵んでくれたという神話に基づいている。これは寄り鯨伝説だ。
マカ族の人々は、捕鯨はしたくても出来ないが、今でも毎週のように先祖代々伝わっている手漕ぎの伝統捕鯨ボートで捕鯨の訓練をしている。多くの人々は漁業に従事していて、特にオヒョウの漁獲はこの町を支えているし、ギンダラの燻製は新製品だというが、こってりと脂が乗っていてまことに美味の極みだった。私たちの宿舎に当てられたリゾートキャビンは、ダブルベッド、バストイレ、空調、IH調理器つきの豪華なログハウスで、自炊ながら心地よく食べかつ飲めたのであった。
ところが、この平和なニアベイに突如として事件が持ち上がる。
今年の9月8日(土)の朝、いつものような伝統捕鯨の練習中に、本当にコククジラを1頭仕留めてしまったのである。シアトルタイムスの第一報は「部落ゴロツキがコククジラを射殺した」というもの。これで現地の空気が推し量られよう。
この捕鯨が、故意か、事故か、さらにはマカ族に与えられている沿岸捕鯨権利と保護法との関連という論議が巻き上がった。翌日曜日に開催されたマカ族集会では、不当に制限されている沿岸捕鯨権利を回復せよという声が強かったようだが、マカ族議会の人々は、このような事件によって部族としての権利に不当な制限を加えられることを避けるために、あえて保護法違反であったことを認めることに決定したようだ。
捕鯨訓練チームのリーダーで、コククジラを仕留めたジョンソン氏の発言は、「私は当然訴追されるだろうが、マカ族一員の行動としては悔いるところはない」というものだった、と外電は伝えている。
くじら食文化を守る会 会長 和仁皓明
いさな2006年会報より抜粋
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